NOVEL

第1話 イエフとウィリー

「おい、間違えるなよ。」
「わかってるよ。」

二人の天才科学者、イエフとウィリー。
イエフは8歳で、ウィリーは12歳の兄弟なのだが、
この歳で近所からは天才科学者と呼ばれている。

今、ウィリーがイエフに、一人でカエルの解剖を成功させるように
指示していた。

「できた!」
「よくやった!」

なんと、イエフは8歳にして、生きたままカエルの解剖に成功したのだ。
それも、一人で。

「こいつは記念にペットとしてとっておこう!大事なサンプルだ!」
「ししし・・・。」

翌朝、ウィリーとイエフは、学校へ行く支度をしていた。

「おい、イエフ。面倒じゃないか?学校って。」
「うん。わかりきったことしかやらないからね。」
「生物の先生に解剖に成功したカエルを見せに行こうぜ!」

学校に着くとイエフとウィリーは早速生きたまま解剖に成功したカエルを
生物のドラッグ先生の元へと持っていった。

「先生!僕、カエルの解剖に成功したよ!それも、生きたまま!」
「はっはっは!イエフ!今度は何を言い出すかと思ったら、
生きたままカエルの解剖だって?
そんなの今時の大学生だってできんぞ。
そんなことイエフにできるわけないだろう。
私にだってできないんだ。ウソはいかんぞ。ウソは。」

「ホントだもん!ウィリーに教わりながらやったんだ。」
「ドラッグ先生、ホントだぜ。ほら、ここに手術のあとがあるでしょう?」

「そんなもの見るまでもない。
さぁ、教室へ戻るんだ。」

二人は教室へと渋々戻ることにした。

「なんだよ、あのドラッグのやつ。生徒の話を何一つ聞きやしねぇ。」
「どうしたら信じてもらえるかな?!せっかくここまでやったのに。」

教室を戻る途中の廊下で二人話していると、
イエフの友達の女の子、ウォイスが話しかけてきた。

「イエフ!また何かすごいことやったの?」
「秘密だよ。ひみつ。」
「教えてよー!ねぇ、ドラッグ先生と何話してたの?」
「ドラッグ先生、相手にしてくれないんだ。」
「そうよね。ドラッグ先生より、イエフの方がよっぽどすごいのに…。
そうだ。今日昼過ぎに、学校集会があるでしょ?
その時に、偉い先生がくるみたいよ。
その人と話してみたら?」

イエフは、昼過ぎの学校集会まで、退屈な授業を聞きながら待つことにした。

第2話 教授の演説

 

 

「キーンコーンカーンコーン・・・。」

やっと終わった!退屈な授業が。

体育館には続々と生徒たちが集まっていた。
集会が始まった。
校長先生の挨拶から始まり、さまざまな連絡事項が話された後、
何やら生物学の大学教授が我が小学校で演説しに来たらしく、
興味深いことを色々と話していた。

・・・この人だったら、僕たちのすごい業績のことをわかってくれるかもしれない。

そうイエフは思い、教授の演説が終わり、集会が終わった後、
その大学の教授にカエルを店に行くことにした。

大学の教授の名前はラムダ教授。
集会が終わった後、イエフとウィリーは
ラムダ教授の元へ駆けつけた。
「ラムダ教授。初めまして。イエフといいます。」
「イエフくんか。初めまして。」
「昨日の夜、カエルを解剖したんだ。このカエルなんだけど・・・。」
「カエル?うわっ!カエルだ!
私はカエルは苦手なのだ。うう、おぞましい。」
「僕はウィリーって言います。
見てくれよ。ほら!ここに手術の跡があるだろ?」
「うわぁ、気持ち悪い!
た・・・確かに手術の跡がある。
これは・・・学術的にも正確な解剖の仕方だな・・・みるところによると。
・・・なんだ?!それも、このカエル、生きているじゃないか!
どこの名医がこんなことを成し遂げたんだ?」
「僕です!」

イエフは、自慢げに胸を張って答えた。

「は?・・・なに?
これを・・・君がやったというのかね?」

「そうです!」

「・・・信じられん!」

「このカエル、腸の病気を抱えてて、手術したんです。」

「・・・そんなバカな・・・。
イエフくん。これはとんでもなく偉大なことだ。
・・・イエフくん!ぜひ、我が大学に顔を出しにきてくれないかね?」

「イエフ!やったな!」
ウィリーは、イエフの方をポンと叩いた。

「へへへ・・・。」

第3話 ラムダ教授とドラッグ先生の会話

 

「あ!これはこれは!ラムダ教授!あなたのような教授が我が学校へようこそいらっしゃいました。」
「なんだ?君は・・・ここの教師かね?」
「ドラッグと申します。教授。」
「ドラッグくんか。君の生徒はとてつもなく優秀だねぇ。当然聞いているだろう?イエフ君の凄まじい業績を。」
「え?なんのことです?」
「カエルの生きたままの解剖に成功した話だよ。」
「え?あぁ、あの大人をバカにするくだらない話ですか!そんな話に教授が付き合っていただくなんて・・・」
「・・・君の目はふし穴かね?イエフ君の持っていたカエルの手術あとは紛れもない解剖の跡だ。君は生徒の話を信用しなかったのかね?」
「えぇ?!そんなバカな。あのイエフにそんな・・・」
「君は私でさえも愚弄するつもりかね?」
「いえっ!そんな!教授!」
「私には、君のような教師よりも、生徒のイエフ君の方がはるかに優秀に見えるね。」
「はははっ!そんなぁ〜。(くそっ!イエフのやつどんな姑息な手を使ってラムダ教授を騙したんだ?)」

「さすがは俺の弟だな!イエフ!」
「ウィリー兄ちゃんがわかりやすく教えてくれたからだよ!」

二人は、カエルを持ってラムダ教授の大学へと向かっていった。

第4話 大学でのイエフの講義

(・・・いたぞ!イエフとウィリーだ!ラムダ教授の大学へ向かうつもりだな?)
ドラッグ教師が、身元をバレないように尾行しているようだ。
イエフとウィリーは、そんなことにちっとも気づきやしなかったようだ。

「イエフ君、ウィリー君。我が大学までよく来てくれたね。」

ラムダ教授の研究室に入ると、ラムダ教授はイエフとウィリーを
熱烈に歓迎してくれた。

「早速だが、イエフ君。我が学生に、カエルのことについて講義してほしい。」

「え?!僕が?」

(くそっ!さてはイエフのやつ、何かとんでもないズルをしたな?許せないやつだ!)
ドラッグ教師が、窓の外で聞き耳を立てている。

「それでですね・・・。ここはこうなって、こうすると・・・。」
大学の講義室では、学生が50人ほど集まって、イエフの講義に集中していた。

(くそっ!くそっ!デタラメ言いやがって!)
窓の外で聞き耳を立ててイエフの講義を聞いていたドラッグ教師は、
すでに気が気でない状態になっていた。

「こうすると、こうなるんです。・・・で、このカエルが・・・あっ!」
イエフのカエルが飛び出して、窓の外へと飛んでいった!

そのカエルが、ドラッグ教師の足元に!

「・・・こんなもの!」
ポカッ!
ドラッグ教師はカエルを蹴飛ばして、逃げていった。

「どこいった?僕のカエル・・・あぁっ!」
なんとカエルはひっくり返ってピクリとも動かない。

・・・どうやら死んでしまったようだ。

第5話 兄ウィリーの本気

 

 

家の外は雷が鳴っていて、雨が地に打ち付ける音で響音して、
僕の心はめちゃくちゃにしびれているのに
空は明るい。

「イエフ。これで終わりじゃない。オレがいるだろ?
この地上の生を受けたのにもかかわらず、一人旅立つカエルの魂を
引き戻してやろうじゃないか。」

「ウィリー、死んだものを生き返らせようってのか?
そんなの無理だ。またカエルを拾ってきて、体の悪いところを
解剖して直してやればいいじゃないか。」

「いーや。オレは気づいたんだ。
生きたままのカエルの解剖に成功したことが、
こんなにもちっぽけで、誰にも振り向かれない小さなニュースだということを。」

「ウィリーには、死んだものを生き返らせるくらいの力くらい、あると思う。
でも、そんなことしていいの?
生きることの意味がわからなくなりそうだよ。」
「イエフ!引っ込んでろ!
今度こそ世界中の科学者のドギモを抜かせるんだ!
部屋から出て行ってくれ!」

「ウィリー・・・。」

カエルはぺちゃんこになり、ピクリとも動かない。
外は雷鳴がうなっている。

「フランケンシュタイン?
クソ食らえだ。
そんなおとぎ話にはちっとも興味がない。
・・・フランケン。
お前は今日からフランケンだ。
今ここでおとぎ話を超えて、世界の常識を覆すんだ。」

ガカーン!!!

雷が落ちた。
雷の落ちた先に、小さな機材が丸焦げになって落ちている。
次の瞬間、その機材からビーッビーッとブザーがなりだした。

「ウィリー!
雷の気象衛星から導き出した観測場所に、予測通り雷が落ちた!
エレクトリックチャージマシンがブザーを鳴らしてる!」

「よし!ここへ持って来い!」

降りしきる雨の中、イエフは丸焦げの機械を拾ってきて、
ウィリーに渡した。
ウィリーによって、元の形に復元されたカエルと
エレクトリックチャージマシンから伸びる導線の露出した金属部分を
繋げた。

「フルパワーだ!出力を最大にしろ!」
「うわあぁぁぁ・・・!」

・・・ドカン!!!!!

カエルがただでは起きないくらいの、とてつもない感電音が外まで響いた。

家の中は煙で包まれている。

第6話 ウォイスの死

 

 

 

「ウォイスが・・・死んだ。」

イエフは、ウォイスの家に来ていた。
昨日の雷雨で、雷に打たれたらしい。

「カエルが・・・フランケンが生き返ったっていうのに、
ウォイスが死んじゃうなんて・・・。」

「イエフ。そう落ち込むな。
このフランケンがいる限り、ウォイスだって生き返れるようになるさ。」

ウィリーの抱えるカゴの中に、ツギハギだらけのカエルが、
不思議そうにウォイスの亡骸を見ていた。

その頃、ドラッグ先生は学校の教師を辞め、
ラムダ教授の助手となっていた。

イエフの手柄は、ドラッグのアドバイスによるものだと
自らホラをふいたのだ。

「いやー、それにしても残念でしたね。
せっかく私のアドバイスでカエルの手術を成功したものの、
また死んでしまうとは。
どうやら、手術は失敗に終わったようですね。」

「イエフ君の実績は、量り知れないものだったのだがね。
なんとも、もったいない。
実は、そのイエフ君の兄のウィリーと、これから面会の予定が入っている。
そろそろ訪れる頃合いだが・・・ん?」

コンコン。

「ラムダ教授!これを見てください。」

フランケンはラムダ教授の顔をじっと見た。

「あれ?!これは私が殺したはずのカエルが・・・?!」

フランケンは、ドラッグ助教授の顔を見るなり、ぷいっと顔を背けた。

「ドラッグ君。君がイエフ君のカエルを殺したのかね?」

「い、いえ・・・。手術の失敗のショックで、
私のココロをズタズタにしたカエルが、なぜここに・・・?」

「ドラッグ先生、ラムダ教授。オレ、やったぜ。
フランケンを生き返らせたんだ。」

第1話 里山のオオカミ

オオカミ男って知ってますよね?
そうです。満月を見ると人間になるオオカミです。
とある山奥で、オオカミ人間が、オオカミの群れで生活することに嫌気がさしてきた話です。

「俺、オオカミとしてやっていく自信ないな。」
オオカミ男の『リャン』は、満月の光の差す、眺望の良い高い崖のてっぺんで、そう呟いた。

「バカモン!」
リャンは次の瞬間、後頭部に衝撃を食らった。
後ろに立っていたのは、父の『ナーダ』だった。
ナーダもまた、オオカミ男である。

「何をたわけたことを言っておる。お前はオオカミたちを率いるオオカミ界のトップじゃぞ。お前がそんなんでどうする!?」
ナーダは、リャンの不甲斐なさに怒っていた。
しかし、リャンも黙っていなかった。

「うるせぇ!俺はオオカミが嫌いだ!オオカミ男なんて中途半端な奴も嫌いだ!俺ははっきり言って、人間になりたい!」
そう言って次の言葉を投げようとした時、それを妨げるようにナーダは言った。
「何をバカなことを言っている。お前は満月の夜にしか人間になれないのだぞ。しかも我が種族は満月の夜に人間になれたとしても、体は人間で、顔はオオカミのままだ。人間社会でやっていくには絶望の極みだ。」
ナーダがそうリャンに悟るように語りかけていると、リャンは反抗した。
「やってみないとわからないじゃないか!俺はとにかく、この里山を出る!」

そう言ってリャンは、啖呵を切るようにその場を去り、今夜にも人間界に出ることを決めた。

勢い任せに荷物をまとめ、スーツを身にまとったリャンは、山を下り、人間界の街へと向かっていった。

山を下ると、そこはネオンの光る人間界の街並み。
「・・・この柵を超えれば、俺は人間の一員ってわけだ。」

やはり、街に出るとこの夜中なので、人影は見えない。
しかし、山奥で生活していた頃とは比べものない街の明るさで、リャンは目が眩んでいた。
眩しい。頭がクラクラして、めまいがする。少し休みたい。

そう思って、レンガ調の建物の横に座り込んで、目を瞑って目を休めていると・・・

「ハァ〜イ!お兄さん、酔っ払ってるの?犬のお面かぶって寝てるなんて。」
赤いタイトワンピースを着た若い女性が話しかけてきた。

人間のメスだ。俺は今中途半端に人間だが、人間のメスも悪くない、と思った。
しかも、犬を連れている。我が種族の劣化版だ。良く言うペットってやつか。人間に飼われるなんて、落ちぶれたモンだな。
・・・しかし、こいつもまた色気があってなかなかいいな。この犬もメスだな。

「酔っ払ってなどいない。俺はお面などかぶっていない。」
「え?!なに?!そういうキャラ?なに?それどういう遊び?面白そうじゃん!」

バカバカしくなってきて、俺はその場を去ろうと思って、再び歩き出したが、なにやら女がついてくる。
「ねぇ、お兄さん変わってるね!なかなか面白いよ、それ。イケてるかも。」

俺は無視して、振り切ろうと歩き出したが、しつこく追いかけてくる。
俺はこの人間のメスより、連れているメス犬の方が気になっているが、何か勘違いされているので、めんどくさいので次行こうと思っている。

随分歩いた。これだけ歩いたかいあってか、メスどもも遂には諦めてどこかへいってしまった。
俺は今、人間界の街にいる。そう思えるだけで、心の底から感動が湧き出してきた。
人間といったら、まず酒かな?そう思って、古ぼけた居酒屋に入ることにした。

「いらっしゃ〜い!・・・ありゃ?!なんでぃ、犬の仮面なんかかぶって。」
いちいち対応していると、日が明けてしまう。こんなことに時間を費やしている場合ではない。
「日本酒が飲みたい。出してくれ。」
カウンターに座って、そうオヤジに言うと、なにやらニヤケながら酒を出す準備を始めた。
「お待ち。」
目の前に、コップに注がれた水のようなものが出てきた。
・・・これが日本酒か。
匂いを嗅ぐと鼻がツ〜ンとする。人間はこんなものを好んで飲んでいるのか。信じられん。
しかし、俺もこうなっては人間だ。人間らしいことをしてみようじゃないか。

そう思って、クイっと日本酒を飲み干した。
グォッ!喉が熱い!
・・・だが、少し甘みがあって、味はそんなに悪くないな。

「お前さん、仮面のまんま飲めるんだな!最近の技術は進歩したもんだ!」

無視貫徹だ。
「オヤジ、もういっぱいくれ。」
俺は、山からなにも飲まず食わずで下ってきた。だから喉が渇いている。
このちょっと変わった水で、喉を潤したい。

喉の渇きに任せて、日本酒を飲み続けた。すると、なにやら笑いが止まらなくなってきて、周りのものが全て、なにを見ても可笑しくて、オヤジの分厚いクチビルも、可笑しく見えてたまらなくなって大笑いしていた。

「あ、ワンちゃんだ!」

・・・ん?
眩しい。

「このワンちゃん、捨て犬かな?ねぇ、ママー!」

俺は気がつくと、ゴミ袋の山の中で寝ていたことに気づいた。
うっ!頭が痛い!
これが二日酔いというやつか!

第2話 犬扱い

 

 

・・・もう昼だ。ずっと寝ていたのか。
起き上がろうとすると、体がやけに軽い。二日酔いのはずなのに。

そうか。満月の夜が過ぎたから、体がオオカミに戻ったんだ。

「どうしたの?まぁちゃん。あら、立派な犬ね。」
「ねぇ、ママ。このワンちゃん、こんなところにいちゃ、かわいそうだよぉ。」
「どうしたのかしらね。」
「ねぇ、飼っちゃダメ?」
「パパに聞いてみないとわからないわ。」

・・・体が言うことを聞かない。
起き上がろうとしても、すぐにゴミ袋の山に倒れこんでしまう。
二日酔いとは噂に聞いていたが、なるほどこんなになってしまうものなのか。
仕方ない、しばらくここでもう少し休んで・・・ん?

次の瞬間、リャンの体がふっと宙に浮いたような気がした。いや、誰かに持ち上げられているのだ。

「こいつかー。結構でかいけど、弱ってるみたい。まぁちゃん、このワン公飼いたいのか?家で少し様子を見てみるか。」
「パパ、ありがとう!」

なんだ?知らぬ間に話が勝手に進められている。
俺は酔ってゴミ袋の上で寝ているだけだ。確かに弱っているが、人に介護されるほど落ちぶれちゃいない。勝手に人の体を触らないでほしい。

しかし、そんなリャンの思いも脆く崩れ去り、体を抱えられ車へと担ぎ込まれた。

俺はどこへいくんだろう・・・?

あまり深刻に考えずに、と言うより、深く考えられる余裕がないので、とりあえず寝ることにした。
しばらく寝ていると、
「リャン!ついたよ!」

俺の名前を呼ぶ奴がいる・・・。
まだ眠い。寝る。ほっといてくれ。頭も重いし。

・・・と言っているのに、こいつらは。

リャンは、男に、車から抱きかかえられて、家へと連れて行かれた。

「重いなー。しかし無抵抗だな。よっぽど元気がないみたいだ。」

・・・二日酔いなだけだ。

「リャン!家に着いたよ!」
「リャン?このワン公の名前を、まぁちゃんがつけたの?なんで、リャンなの?」
「中国のお友達に、リャンピンて男の子がいて、なんとなく雰囲気が似てたから。」
「ふーん。」

見事に俺の名前と一致している。何かの縁だろうか?
しかし、このオオカミのトップ、オオカミ男のリャンを介抱してくれるとは、まぁまぁ出来た人間どもだな。しかもこの家もなかなか広くて、涼しくて、悪くない。
・・・俺のことをワン公と呼ぶのが気になるが。

「しばらくここで休ませて、様子を見てみるか。」

なかなか快適なので、俺はまたすぐに眠りについてしまった。

気がつくと夕方。
二日酔いも抜け、俺は気分良く目を覚ました。まだちょっと足がふらつくが。
こんなところにいつまでも厄介になっているわけには行かない。お礼だけ言って、ここを出よう。
そう思って、玄関の方まで歩いていくと、まぁちゃんと呼ばれてた女の子に出くわした。

「リャン!あなたのお家よ!」

は?何をこの子は言っている?あなたのお家?なんのことやら。
俺は、この家を出る。厄介をかけて迷惑をかけた。恩に着る。

「ワウ、ワウ、・・・ワン。」
「あ!リャンが喋った!元気になったみたい!喜んでるの?今紐をつけてあげるからね。」

俺は家を出ると言っている。紐をつけている場合ではない。

「ワン。・・・ワン。」
「あら、そう。喜んでるのね!いまお家に連れてってあげるからね。」

そう言われると、庭に置いてある小さな家の形をした、小屋にくくりつけられた。
これは・・・本で見たことがあるぞ。

・・・犬小屋というやつだ!!

おい!ちょっと待て!
俺は犬じゃねぇ!

「ワン!ワン!ワン!」

「リャンが元気になった!嬉しい!」

第3話 ゲンキンな猫

 

 

落ちぶれたもんだ。
人間の子供に、オオカミ男が飼われるなんて。

人間社会に憧れて、わざわざ山郷離れてやってきて、犬と間違われてペットにされるとは。
情けない。

「はい、晩御飯よー。」
むっ!ドッグフードだ。
なるほど食ってみるとなかなか美味い。カリカリとした食感。濃厚な香り。

くそっ!俺は犬じゃねぇ!

「リャン、お手。」

なんだ?右手を出せばいいのか?
「あら、よく出来たわねー!はい、チーズあげる。」

なんだ?チーズ?
なんだ?!この食い物は!めちゃくちゃ美味い!

・・・うむー。犬のペット生活も悪くないかも。

 

 

日が明けた。
俺は相変わらず、犬小屋に紐をくくりつけられて、この狭い部屋で朝を迎えた。

・・・なかなか清々しいじゃないか。

俺の飼い主も結構な金持ちらしく、まぁちゃんどもが住んでいる家もなかなか立派だ。
俺の家の周りも、綺麗な新緑の芝生が生えていて、眺めがいい。

悪くないな。

いや、これを受け入れていいものだろうか。
これを受け入れてしまうと、オオカミ男としてのプライドが・・・。

色々考えていると、庭に野良猫がやってきた。

貴様!俺の縄張りに何の用だ!
「ワン!ワン!ワン!」

「リャン!ダメよ。チャミーに吠えちゃ。」

むむっ!まぁちゃん!
この縄張りに入ってきたロクでもないネコの味方になるつもりか?!
チャミー?なんだそれは。

「この子はチャミー。毎朝ウチに来てあいさつに来てくれるのよ。仲良くしてあげて。」

むむー。まぁちゃんがいうなら仕方ない。

「はい、お魚よ。」

ん?よくよくみるとマグロの刺身をあげている!
おい!俺の飯より格上じゃないか!!
くそー!チャミーめ!なんて憎たらしいやつだ!
「ワン!ワン!ワン!」

「めっ!ダメよ。これはチャミーのご飯なんだから。今リャンのご飯持ってきてあげるから待っててね。」

出てきたのはドッグフードである。
くそー。俺はオオカミ界のトップだぞ・・・。こんな朝飯よこしやがってー・・・。
・・・美味いな。

第4話 散歩

 

 

ドッグフードを食べて満腹になって横になっていたら、チャミーも満足したのか愛想を振りまくだけ振りまいて帰っていった。いわゆる八方美人てやつか。ゲンキンなやつ。

「リャン、散歩行くよ。」
お!まぁちゃん。
散歩?アホくさ。それは暇になって何もやることがなくなって気分転換にすることだ。過保護なことはよしてくれ。

自分の意思を貫こうと思ったが、首につけられている紐を引っ張られ、無理やり小屋から引きづり出された。

しゃあない。付き合ってやるか。街の様子も見れることだし。

俺はまぁちゃんの歩く歩幅に合わせ、ついていくことにした。
街はいろんな匂いがする。焼肉の仕込みの匂い、喫茶店のお茶っぱの香り、オレンジの木のオレンジの匂い、川の匂い、アスファルトの匂い。

里山と違って、刺激があるな。

「今日はね、ゆうくんが退院する日なんだよ。ゆうくんが病院から戻ってくる日なんだ。今日の夕方には会えるかな。ゆうくん、リャンに会えるの楽しみにしているよ。」

ゆうくん?兄弟の話か?

「あら、まぁちゃん。ワンちゃん飼うことにしたの?!すごい!」

突然女の人がまぁちゃんに話しかけてきた。眼鏡をかけていて上品そうだ。ベビーカーと、毛むくじゃらの犬を連れている。

「アキさん!そうだよ、リャンて名前にしたんだ!アキさんの友達のリャンピンに雰囲気が似てるから、そういう名前にしたんだ。」

「へー!いいね!ラッキーも友達ができて嬉しいって、喜んでるよ。」

ラッキー?あぁ、この毛むくじゃらの犬のことか。
しかし、リャンピンて、どこかで聞いたことあるような・・・。

昔、大陸を越えて修行に行っていた頃、周りからはリャンピンて呼ばれてたな。

その時に会った女に似ている・・・。
しかし、そんなはずはない。だって、その女はその大陸の格闘技チャンピオンだ。

第5話 プラネタリウム

 

 

「オギャー!」
「あ、カイ君が泣いてる!カイ君元気そうだね!」
「カイもどんどん大きくなるのよねぇ。いつでもウチに来て、カイの相手してあげてね。新しい、リャン君も仲間になったことだし、私も近い内にまぁちゃん家にお邪魔するね。」
「アキさん、いつでも遊びに来てね!バイバーイ!」

アキとラッキーとカイか。
まぁちゃんと親しそうだったから、一応覚えておくか。

あー疲れた。散歩行ってきた。
いろんな人に会ったなぁ。
また犬小屋に紐をくくられて・・・と。
なんか、犬扱いに慣れてきたな。美味しいもんも食えるしな。

犬ってこんな生活してるんだなぁ。
俺は犬じゃなくてオオカミなんだけどな・・・。

ボケーっとしていると、見覚えのある顔が庭の前を通るのを見かけた。

「ワン!ワン!」
む!見覚えのある犬がこちらに向かって吠えている。
なかなかセクシーな犬だ。

「ベティ!ダメよ、吠えちゃ。あら、ここの家、ワンちゃん飼ってたかしら?」

思い出したぞ。人間の街に入って、一番最初にしつこく追いかけ回してきたメスたちだ。

「あら、このワンちゃん、なかなかイケメンね。見覚えがあるような気がするけど・・・。まぁいいわ。行くわよ、ベティ。」

行ってしまった。
あの時の俺がこの犬小屋にくくりつけられているオオカミだとは、思いもしないだろうな。

里山に残されたオオカミたちは、俺なしでうまくやっているだろうか。いいんだ。俺は人間界で暮らしていくんだ。今は犬のペットみたいな扱いを受けているけど、そのうちここだって抜け出して、立派に人間として生きていくんだ。
まぁ、ここの生活も悪くないがな。

しかし、この犬の生活も飽きてきた。ここを脱走するか。
オオカミの牙は犬の牙よりも鋭い。紐を食いちぎるくらい朝飯前だ。

ブチッ!

紐を噛み切ってやった。世話になったな。俺はこの家を出る。

リャンは、塀をヒョイッと軽々と飛び越えた。

・・・それにしても、体が人間からオオカミに戻ってしまった。
どうしよう。
人間として見てくれないぞ。お金もないし・・・

トボトボと歩いているうちに、市民センターのようなところを見つけた。
ここで職探しのようなこと聞いてみようかな・・・。でも、俺今オオカミだ。人間の言葉も喋れないし、まともに相手してもらえるだろうか?
そんなことを考えながら、中を進んでいるうちに、何やら星の模型を見つけた。

なんだ?ここは。
あぁ、これも何かの資料で見たことあるぞ。プラネタリウムってやつか?
ちょうど上映中だ。係員は掃除に夢中で、俺に気づいていない。
ちょっとゆっくりしたいところだった。えぇい、入ってしまえ。

中に入ると、真っ暗だ。
すごく居心地のいい音楽が流れている。こりゃいいや。ここで休ませてもらおう。

「ママー、ワンちゃんがいるよ。」
「しっ。プラネタリウムの中では大きな声を出しちゃダメよ。」

危ないところだった。幼稚園児に見られて、危うく追い出されるところだった。

階段横の物陰に隠れながらゆっくりしていると、ナレーションが聞こえてきた。

「では、ご覧いただきましょう。今私たちの住んでいる地域の、『ことりの丘』から見える夜空の、満月と星空の世界へあなた方を導いて差し上げましょう。」

「ウオォォォォッ!」
体の中の血管が波打っている!熱い!

・・・オオカミ男になってしまった。
プラネタリウムで変身できるんだ・・・。

これはいいぞ。それも、平日は毎日上映してるみたいだ。
プラネタリウムが終わっても、オオカミ男でいられるのだろうか?

「ありがとうございました。出口は向かって右側です。足元にお気をつけて、お帰りください。」

上映が終わった。オオカミ男のままだ。すごい!
館内を自由に行き来できるぞ!

しかし、今俺は素っ裸だ。チャンスの後のピンチだ。
ここで人に見つかったら通報されてしまう・・・。

スーツは居酒屋のゴミ捨て場の横に置いてきてしまった。
どうしよう。

第6話 面接

 

 

みんな帰ったみたいだ・・・。
よし、ここを抜け出そう。

「きゃー!犬の仮面かぶった変態!」

やべぇ!掃除のおばさんに見つかった!逃げろ!

「誰かぁ!その人追いかけてぇ!」

受付のおっちゃんが追いかけてくる!やばい!これは真剣にやばい!

市民センターを出た!右か!左か!?どっちに逃げる!?

・・・あれ?おっちゃん、追いかけてこない。

「あれー?どこ行ったんだべ?消えた。」

む!体がオオカミに戻っている!
そうか!市民センターの中ではオオカミ男でいられるけど、外に出て太陽の光に当たるとオオカミに戻るんだ!

これは都合がいい。よかった。警察連れて行かれなくて済む。
よし!こうなったら、居酒屋のゴミ捨て場にスーツを取りに行くか。

よかった。あった。ズボンの中のサイフも、ちゃんと入ってる。
とりあえず今はオオカミだから、まぁちゃん家に戻ってドッグフードもらいに行くか。
それで、明日またプラネタリウムにリベンジだ。

「どこ行ってたのよ、リャン。勝手に紐食いちぎって。」
まぁちゃん。よかった。俺、とんでもない目にあったんだよ。まぁちゃんの顔を見て、ほっとする。

「今日ゆうくんが帰ってくる予定だったけど、都合があってママとおばあちゃん家に泊まるって。大人しくしてないとダメよ」
そう言って、また新しい紐をつけられた。
「はい、ご飯よ。お腹空いてたでしょ。」
やった!ドッグフードだ!うまいなぁ。

日が明けた。
よし、そろそろこの紐を食いちぎって・・・。
ブチッ!

早速プラネタリウムへ直行だ。

そうか。プラネタリウムは午前の部と午後の部があるんだな。
今度はスーツを忘れないように、カバンに入れて咥えて持ってきた。

まずは、午前のプラネタリウムを見よう。

「ウオォォォォッ!」
オオカミ男にへーんしん!
スーツに着替えて、と。

市民センターでご飯を食べよう。
リャンは、市民センター内にある、『喫茶ウルフ』でスパゲッティーを平らげた後、市民センター内にある図書館で、本を読んで時間を潰した。

「次回からはお面をとってご利用くださいね。」
受付のおねえさんに注意されてしまった。

午後の部。
よし、係員にここで働かせてもらうように頼み込もう。

「すみません、ここで働かせて欲しいんですけど。」
「なんだ君は。犬のお面なんかかぶって。どういうつもりだ。けしからん。」
「いや、違うんです。ここ、プラネタリウムで、満月を上映するでしょう?オオカミ男のマスコットキャラクターとして、どうかなと思いまして・・・。」
「いいね!キミ!採用!」

あっけなく採用されてしまった。

第7話 ドロボウ

 

 

「早速キミ、午後の部が始まるだろ?接客やってみてくれよ。今日は外で呼びかけする日なんだ。」

早速ピンチだ。
外に出たらオオカミに戻ってしまう。
どうしよう。

俺は、市民センターの出口まで来て、立ち止まってしまった。

「どうした?」
「いや、俺、太陽光に当たれないんです。」
「日の光に弱いのか?じゃあ俺のサングラス貸してやるよ。ほれ。これでサングラスをかけたオオカミ男の出来上がりだ。いいマスコットじゃねえか。」

俺はサングラスをかけて市民センターを出た。
えぇい、ままよー。

あれ?オオカミ男のままだ。
どうやら太陽光を裸眼で見なければ大丈夫らしい。

「あぁ!オオカミ男だ!ママー!」
「ちょっとゆうくん!お家に帰るのよ。」
「いやだ!あのプラネタリウム見に行きたいー!」

男の子が駆け寄ってきて、俺に抱きついてきた!
俺を本気でプラネタリウムのマスコットだと思い込んでいるらしい。

「えぇい!近づくんじゃねぇ!」
俺はまとわりついてくる男の子を振り払った。

「あ!このマスコット営業の手抜きしてる!」
なんというませた子供だ。

 

 

「今日はよくやってくれた。明日から頼むよ。」
係員のおじさんに、アルバイト採用として認められ、意気揚々とまぁちゃん家に帰ることにした。

「ただいまー。」
「誰だ!お前は!不法侵入だぞ!警察を呼ぶぞ!」

うわっ!まぁちゃん家の父親がすごい剣幕で俺を追い立ててくる!
とりあえず逃げろ!

なんだ?あぁ、そうか。俺は今人間の体だったな。
俺はサングラスを外すと、オオカミの姿で、犬小屋に戻った。

 

 

夜中。
ふと車の音で起きた。
黒い車がまぁちゃんの家の隣で止まった。
こんな夜中に何の用か・・・。

「おい、デビ、人がいないか確認してこい。」
「わかったよ、ちょっと待ってて。」

なにやら人の話し声が聞こえる。

背の低い小太りの黒いハットに黒いスーツのサングラスをかけた男が、ズカズカと玄関まで歩いている。
宅急便かな?しかし、こんな夜遅くに・・・。

「ビル、とりあえず玄関まではいないよ。」
「よし。」

今度は、背の低いのと一緒に、ひょろ長い背の高い、黒いハットに黒いスーツのサングラスをかけた男が出てきた。

なんだ?あのペアルックは。

なにやら、玄関の鍵穴をピンでほじくっている。
泥棒か。しょうがないな。

 

「ぎゃあっ!!」
ゆっくり近づいて、鍵穴をほじくっているひょろ長いやつのケツを思いっきりかじってやった。
「うわぁ!こんなでかい番犬がいる!おい、デビ!撤退だ!」
「へい!」

ザコめ。オオカミをなめるなよ。

「ちょっと!なんの音?悲鳴が聞こえたけど!」
まぁちゃんママが玄関の電気をつけてやってきた。
続けてまぁちゃんパパがやってきた。
「あ!黒い車が走っていくぞ。」

「見て!」
そこには、鍵穴に刺さったピンがそのままにされていた。

「リャン!泥棒からうちを守ってくれたのね!あなたはうちの守り神ね!ありがとう!」
まぁちゃんママに抱きつかれてしまった。
へへ。こんなの朝飯前だ。

第8話 夢

 

 

妙な夢を見た。
そこは、岩肌をあらわにした岩砂漠。
巨大な岩山に囲まれた小さな集落で、お祭り騒ぎが行われていた。
小さな集落は、白い布のテントが寄り添い、そのテントは黄色い砂吹雪きから中に住む人を必死に守っていた。

普段は静閑な集落だが、その日はわいわいと賑やかな一日で、活気に満ちていた。
バグパイプの音楽が、大衆をより活気づけ、人々の喧騒にかき消されていった。
大衆の喧噪の中には、笑い声が紛れ、紙吹雪を撒き散らす陽気な曲芸師も見える。

「始まるよ!始まるよぉ!」

赤いメガホンで、大衆に呼びかける新聞配達員。

カーン!

鋭い金属音が喧噪を裂くように鳴り響いた。

ここは、格闘技場。白いマットの敷かれた、4つの木でできたコーナーに、縦に四本並んだ太い麻糸で囲っただけのリングで、鍛え込まれた引き締まった体の女性と、マーヴェルコミックに出てくるハルクのような上半身裸の巨大な男がジリジリとお互いを睨み合っている。

よくよく見ると、その女性は10kgはありそうな、ゴツい義足のようなものを右足の根元から装着している。

巨大な男が、突然女に襲いかかる!
丸太のような両腕を、頭上から女の頭めがけて振り下ろしてきた!
女は、その10キロはありそうな重そうな義足を自分の足のように使いこなし、その攻撃をひらりとかわし、そのかわした反動と、義足の重みを使い、回し蹴りを繰り広げ、その鉛のような義足が男の後頭部を直撃した!
大男は無残に倒れ込み、意識が朦朧としている様子。
「ワン!ツー!スリー!!」
審判がカウントした。その直後、カン!カン!カーン!とゴングが鳴った!
どうやら、攻撃を受け、3秒以内に立ち上がれなかったら、残ったもう一人の方が勝者になる、というルールらしい。
「アキ・デストロイヤーの勝利!」
どうやら、この試合は準決勝のようだ。
ついに決勝。そのリングに上がった男は・・・

・・・ん?俺だ!
ボロボロのシャツに、戦闘服のようなズボンをはいた、顔がオオカミの男がリングに上がった。
しかし今は日中。空を見上げると、なるほど確かに日中の空に浮かぶ満月がうっすらと姿を見せていた。
リング場にいるのは、俺と、義足の女格闘家。
「お互い見合って!」
カーン!!
「始め!!」

バシャーッ!
顔に何か冷たいものが降りかかってきた!

「リャン、ごめーん。」
そこには、花に水をあげているホースを持ったまぁちゃん。

俺は今、立派な家の庭の小さな犬小屋で、花に水をあげているまぁちゃんから誤って水をかけられているところだった。

そう。夢はここまで。
すぐにまぁちゃんによって現実に引き戻された。

第9話 SDGs

 

 

暑いなぁ。
今日は暑い。
人間界は我々オオカミ一族が住む山よりも、暑い。

まぁちゃんが来た。
「リャン、お風呂はいるよ。」
風呂か。この暑い中で汗をかいた鼻をさっぱりさせるためにも、いいかもな。
まぁちゃんに連れられて、家に入った。

涼しい。なんだここは。犬小屋と全く快適指数が違う。

「お風呂はいるよー。ここがお風呂よ。」
シャワーを体に当てられた。
ぬるいな。これはぬるい。でもこの暑さからすると適温だな。
泡立ってきた。石鹸を使ってるな。
うわっ!目に染みる!
早いとこ洗い流してくれ!

「さ!終わりよー。」
えぇ?!石鹸が目に入ったままだ。痛い。

リャンは着衣場でブルブルッと体を思い切り振り、体の毛に染み込んだ水分という水分をあたりに撒き散らした。

「きゃー!ママー!」
まぁちゃんは、ママに救援援助を求めた。

「うわっ!水浸し!リャン〜、やったな。」

まぁちゃんママに体を拭いてもらったあと、クーラーの効いたリビングでミルクを飲みながらテレビを見ていると、何やら地球環境についてのニュースが報道されていた。
えすでぃー、なんたら、と言っているが、なんのことやらよくわからない。
しかし、人間界のこのクソ暑さに、何か関連している、ということはわかった。

「ゆうく〜ん、リャンよ。かわいいでしょ?」
まぁちゃんが男の子を連れてきた。
ん?この子はプラネタリウムで抱きついてきた男の子じゃないか。
まぁちゃんの兄妹だったのか。
「リャン。どっかでみたような・・・。」
気のせいだ、ゆうくん。気のせいということにしておいてくれ。

 

人間は困るだろうなぁ。こんな暑さの中で生きるのは。
森の中は涼しいから、人間の街を森のようにすればいいのに。
いやいや、まずは自分のことからだ。
我が犬小屋の中をいかにして暑さからしのぐか。

ある程度土を掘ると冷たい土が出てくるんじゃないか?

リャンは、犬小屋の裏で穴を掘り出した。

「ここ掘れワンワン!リャン、宝探しぃ〜?」

まぁちゃん、今は宝よりも暑さをしのぎたい。
かなり掘ったぞ。そろそろいいかな?

中に入ってみた。
うん。なるほど。これはなかなか快適。

居心地がいいので。リャンは中で寝てしまった。

「リャン、どこまで掘るつもりだろ。地球の裏側から出てきたりして。」
まぁちゃんは、想像力豊かだ。

第10話 捨て猫

 

 

穴蔵で一眠りした後、午後からはプラネタリウムのバイトなので、早速首輪につけてある紐を食いちぎり、犬小屋に隠しておいたサングラスとスーツの入ったカバンを加え、柵を飛び越えた。

さぁ、プラネタリウムに向かおう。
「ミー。ミー。」
む?
プラネタリウムに行く途中の公園のベンチの前に、ダンボールが置かれている。そこから何やらかすかなかすれた鳴き声が聞こえる。

リャンは気になり、プラネタリウムに直行しなければ遅刻してしまうのだが、何か事件性を感じ、ダンボールに近づいた。
「ミー・・・。」
確かに聞こえる。
リャンは、ダンボールを開けて中を見てみた。
子猫だ!
ん?何やら子猫と一緒に手紙のようなものが入っている。
『この子を拾ってくれた方、チェリーをよろしくお願いします。』
捨て猫か?この子はチェリーというのか。
なんとひどいことをするのだろう。
猫の命をなんだと思っているんだろう。

リャンは憤りを感じたが、考えている暇もなくバイトの時間に遅れてしまうので、しのごの言わず子猫をバックに入れてプラネタリウムへ走っていった。

しまった!午前中のプラネタリウムで満月を見ないと、人間としてバイトのおっちゃんに会いに行くことができない!

「こねーなー・・・。ばっくれたか?」
やべぇ。おっちゃんやっぱりプラネタリウムの入り口で待ってる。
どうしよう。
とりあえず、ダメ元でこのまま会いに行ってみようか。
「お!ワン公。どうした。よしよし。そのバックはなんだ?」
「ミー。ミー。」
「お?カバンの隙間から子猫が顔を出しとる。しかもこりゃ生まれたばかりじゃねぇか!なんでお前がこんな子猫連れて歩いとるんだ?・・・お腹空いてるみたいだ。ミルクでもあげねぇと・・・。」
おっちゃんが子猫をバックの中からすくい上げると、事務所の中へと入っていった。
今のうちに上映中のプラネタリウムの満月を見て変身しないと・・・!
「グオォォォッ!」
よし、とりあえず変身完了だ。
スーツに着替えてグラサンかけて、と。

「すいまセーン!遅刻しましたぁ!」
事務所の中の、チェリーにミルクをあげているおっちゃんに挨拶した。
「おぉ、今犬が子猫連れてやってきてなぁ。生まれたばっかりで、ミルクでもあげねぇとと思って・・・。あれ!犬がおらんくなっとる!」
これはなんと言い訳しよう・・・。
「その犬、俺が飼ってる犬で、ここのバイトに来る途中ではぐれちゃって・・・。バイト先知ってるから、荷物だけ届けにきたんじゃないかと思うんすけど・・・。子猫は知らないんで、ひょっとするとうちの犬がどこかから拾ってきたかもわかんないすね。ご迷惑おかけします。多分、あいつのことだから、一人で家に帰ってるんじゃないかと。」
「じゃあ、帰るときしっかりこの子猫を連れて帰ってくれな。わしはこの子猫の面倒みといてやるから、お客さんの見送りを頼むよ。」

相変わらずサングラスをかけたオオカミ男のマスコットは人気であり、昨日きたお客さんで、わざわざ俺を見に来るためだけにきてくれているお客さんもいた。

「いやー、なかなかいい看板マスコットになっとるよ!はっはっは。また頼むよぉ!」
おっちゃんからチェリーを引き渡されると、挨拶をしてバイト先を後にした。

第11話 2度目の満月

 

 

「チェリーをよろしくお願いします・・・だって。」

まぁちゃん家に帰ると、チェリーと段ボールの中に入っていた手紙をゆうくんに見せた。
「かわいい!見せて見せて!」
「ダメだよ、まぁちゃん。まだ生まれたばかりなんだから、そっとしてあげないと。僕が世話する!」
「ゆうくん、ちゃんとお世話できる?」
「ママ、僕やるよ。しっかり育てる。」

チェリーはゆうくんに託した。

しかし、こう自宅と職場を行き来しているだけの生活も飽きてくるな。
「あたし、リャンにエサあげてくるー。」

今日は満月か・・・。ん?満月?

「ぐ、グオォォォおお・・・!」
「リャン?どうしたの?お腹が痛いの?」

しまった!まぁちゃんに変身するところを見られる!

「どうしたの?まぁちゃん。リャンがどうかしたの?」

ゆうくんもきた!万事休すだ・・・!!
俺が犬でない、化け物だと知られたら、街中が大騒ぎになるぞ・・・!
そうしたら、人間界にも暮らしていけない・・・。まぁちゃんの家にもいられない・・・!

「グオォォォォォッッ!!」

「・・・?」
「リャン?」

「・・・。」
「・・・わ、わん。」

「大丈夫?」

「わ・・・わん、つー・・・じゃなかった、わん。」

「なんともないみたい。」
「な〜んだ、まぁちゃん。リャンも驚かせないでよ。」

「わわわ、わいん。」

「エサ、置いておくからね。」
「あ、うん・・・。じゃなかった、わん。」

「大人しくしてるのよ。」

「わえふん。」

「ばいばい。」

「・・・」

・・・よし!!!!!
人間になった体を犬小屋の中に隠し、顔だけ出すことによって、全くバレなかった!!!
俺って天才だなー!!

せっかくの満月だ。
スーツに着替えて、人間界を楽しもうじゃないか。

リャンは、スーツに着替えた。浮かれて、誰かに見られていることにも気付かずに・・・。

「あれ・・・、リャン・・・?」

早速街へ繰り出した。
久しぶりの人間界の夜の街並みだな。存分に楽しもう。

「あら〜!この前のお兄さんじゃん!また会ったね!」
あ!里山を降りてきて一番最初に会ったタイトなワンピースを着たお姉さんだ!
「キャン!キャン!」
「あら、ベティも興奮しちゃって!」

このセクシーな犬に歓迎されると、嬉しくなってしまうな・・・。
「ねぇ、どう?今夜一緒に一杯どうかしら?」

「む・・・。俺はあまり酒は慣れていない。だからあまり飲めないが・・・。」

「そんなの気にしないの!行くわよ!」

この女と居酒屋で飲むことになった。

「へい、らっしゃ〜い。お!この前の犬の仮面の兄さんじゃねえか!」
「あら、店主さん、このお兄さんのこと知ってるの?」
「おう!お前さん、最近プラネタリウムで働いてるって聞いたぞ!何やら子供に大人気らしいじゃねぇか!」

いかん。いかんせん、この容貌だから、どうやら街では目立っているようだ。
「俺、この街で金稼いで、格闘技ジムを作りたいんだ。」
「かっこいいじゃない!すごくいいと思うわ。」
「お前さん、格闘技なんかに興味あるのか?あまりそういうタイプに見えないけどなぁ。」
「でも見て!ほら!結構たくましい体してるわよ。」

俺の腹をツンツンつついてくる。あまり気軽に触らないでほしい。
「格闘技、やったことあるの?」

「俺・・・、昔からじいちゃんに鍛えられてて、以前、大陸を越えて一人修行の旅に出たことがあるんだ。」
「へー。すごーい。さすらいの格闘家ってやつ?」
「そこまで大したものじゃないけど、どこまで自分の力が通用するか、試したかったんだ。」
「かっこいいじゃん。あたし、エイコっていうの。あなたが格闘技ジムの師範になったら、あたしの友達だって自慢するから、ちゃんと覚えといてよね。」

ちょっと嬉しかった。
人間界で、オオカミ男がここまで受け入れてもらえるなんて思ってもみなかった。
「ありがとう。」

「あたしさ、アパレルの店経営してるのよね。だから、あなたのジムの道着、うちで作るわよ。」
「お前さん、よかったな。早速お得意先ができたじゃねぇか。」

酒がうまい。こんなに酒って、うまいもんだったのか。
「約束の一杯だ。今夜はありがとう。俺、もう少し一人で街をぶらつきたいから、ここでお別れだ。」
「えー?!もうちょっと飲んで行きなさいよ。」
「悪い。ありがとな。また会おう。」

俺は居酒屋を後にした。

この前みたいな失敗はせんぞ。人間でいられて、街をぶらつけるチャンスなんて、そうそうないんだから。

いい気持ちになってふらついていると、突然の殺気に気づいた!
「バキッ!!」

一瞬の隙をついて、鉛のようなものが頭を狙ってすっ飛んできたが、俺は瞬時の判断でガードした!
「バケモノめ!」

「むっ!!お前は!?・・・アキさん?!」
「なんだと?!なぜ私の名前を知っている・・・!?」

「お前は・・・アキさん?アキ・デストロイヤーなのか?」
「オオカミ男め!人間を欺きに、人間界にやってきたか!!」

「お・・・落ち着いてくれ!アキさん!俺は人間を欺きにきたつもりはない!こんなところでケンカしたら、ひと騒動になる!」

「・・・、・・・!!・・・。」

周りは、なんだなんだと野次馬が集まってきている。

俺はとりあえず、アキさんの腕を引っ張り、狭い住宅街の道のりを縫うように駆け抜けて、野次馬を撒いた。

街灯の並ぶ静かな住宅街。

「いつぶりだろうね。何年経っただろうか。リャンピン。」

「お・・・俺は今ここでは、リャンとしてやっている。リャンと呼んでくれないか。」

「リャン?リャンて言ったら、まぁちゃん家の犬の名前じゃないか!まさか、あなたが・・・!」

「頼む!秘密にしといてくれないか?これがバレたら、まぁちゃん達と一緒に暮らせなくなる・・・。」

「・・・何か事情がありそうね。わかったわ。話なら聞くけど・・・。」

第12話 身元バレ

 

周りは、なんだなんだと野次馬が集まってきている。

俺はとりあえず、アキさんの腕を引っ張り、狭い住宅街の道のりを縫うように駆け抜けて、野次馬を撒いた。

街灯の並ぶ静かな住宅街。

「いつぶりだろうね。何年経っただろうか。リャンピン。」

「お・・・俺は今ここでは、リャンとしてやっている。リャンと呼んでくれないか。」

「リャン?リャンて言ったら、まぁちゃん家の犬の名前じゃないか!まさか、あなたが・・・!」

「頼む!秘密にしといてくれないか?これがバレたら、まぁちゃん達と一緒に暮らせなくなる・・・。」

「・・・何か事情がありそうね。わかったわ。話なら聞くけど・・・。」

街灯の下のベンチで二人話すことになった。

「中国の大会の決勝であなたと初めて試合をした時、あなたはオオカミに化けて、その場を去っていったわね。あの時は屈辱的だったわ。」

「俺は満月の見える間でしか人間の体になることができない。あの時は昼間のうっすら浮かぶ満月を頼りに試合をしていたが、満月が欠けてしまって、人間でいられなくなったんだ。それでオオカミに戻ってしまった。」

「・・・なぜ、今ここにいるの?」

「この街の裏山に俺たちの住処がある。俺はそこで生活することに嫌気がさして、人間界に出てきたってわけだ。」

アキは真面目に話していたが、その話を聞いて、笑いをこらえることができなくなってしまった。

「それで、あの子、まぁちゃんにペットとして飼われてるってこと?」

「・・・俺が仕方なく居てやってるだけだ。」

「ふ〜ん。」

なんだか途中から笑い話になってしまった。
まぁ、とにかく誤解が解けてよかった。

「今はどうやって人間界で生活しているの?」

「プラネタリウムで働いている。」

「プラネタリウム?」

「プラネタリウムで見える満月でも、変身できるみたいなんだ。」

「・・・ふふ。あなたもなかなか苦労してるみたいなのね。」

「アキさんとここで初めて会った時、子供と、犬を連れていたが・・・。」

「あぁ。私は結婚したの。今は一児の母よ。」

「名前は?」

「カイよ。今は旦那に家で子守を頼んでて、ちょっと買い物に家を出てたってわけ。」

「そうか。さっきの一撃は鉛のようなものだったが・・・?」

「あぁ。私の義足ね。相変わらず護身用に身につけてるわ。さっきは事情も知らずに、悪いことしたわね。」

どうも、誤解が解けたようだ。
しかし、こんなところに中国の格闘チャンピオンがいるとは。

びっくりしたなぁ、もう。

「びっくりしたんでもう帰ります。」
「悪かったわね、突然キックして。」

最後に、とてもまともではない会話をして二人それぞれ帰ることになった。

さて、家に帰るか。

でもまだ夜が明けてないぞ。
家の近くをブラブラとでもするか。

・・・あれ?ゆうくんがいる。こんな夜中に、起きていたのか?

ボーゼンとしている。

なんだろう。嫌な予感がする。
あ!こちらに気づかれてしまった!

「リャン!お前、リャンだったのか!」

・・・?そうだが、何か?

「リャン、お前、プラネタリウムで働いてるのか?!」

・・・っは!そうか!
俺は今、犬の姿ではなく、オオカミ男の姿でゆう君の前に立っている!
ほろ酔い気分で気がつかなかった!
なんだ?!話が急すぎる!
ゆうくんは、俺の正体に気がついている!

「・・・!!」

「リャン、お前、しゃべれるんだろ?!ホントは!なんとか言えよ!」

「・・・な、なんで俺がリャンだとわかる・・・?」

「僕見たんだ。リャンが犬からヒトみたいになるところを。」

げげっ。
ゲームオーバーだ。
もうこのうちにいられない。
化け物を許す家庭など、どこにいようか。

「・・・そうか。そういうことなら、もうこの家にもいられないな。」

「なんで?!」

「パパ、ママが許してくれるわけないだろう?それに、まぁちゃんもこの事実を知って、怯えてしまうかもしれない。」

「えぇ!?そんなぁ。・・・じゃあ、こうしよう。このことはリャンと僕だけの秘密にしよう!」

・・・秘密?

「ゆうくん・・・、提案はありがたいが、そんなこと、本当にできるのか?」

「できる!僕できるよ!約束する!」

・・・しばらく考えたが、この方法以外この家にいられる方法はなさそうだ。

第13話 父の出現

 

朝になった。眠い・・・が、油断できん。
ゆうくんは・・・、と。

こっちの方を見てニヤニヤしている!
やっぱり顔に出ている!!

「ゆうくん、どうしてリャンのこと見てニヤニヤしてるの?」

「え・・・?!してないよ!ニヤニヤなんてしてないよ、まぁちゃん。」

「してるじゃん。変なの。なんか隠してるでしょ。」

「かかかかか隠してるわけないじゃん!」

・・・もう疑われているー!!

俺がオオカミ男だとバレるのは時間の問題だ・・・。

「リャン、ご飯よー。」

いつものドッグフードだ。
今日もバイトだ。早いとこ食べて出かけよう。

ゆうくんには事情を昨日話していて、バイトの時間前に首輪につけられている紐を外してもらった。
「これからプラネタリウム行くんでしょ?僕もついてっていい?」

何を言ってる!ゆうくんは幼稚園があるでしょ!

「ゆうー?!幼稚園の支度はー?!チェリーに餌あげたー?」
ゆうくんまぁちゃんのママの声が聞こえる。

「あ!はーい!」

やれやれ、家に戻っていった。
さて、俺はバイトへ行くか。

「ガルルルル・・・!!」

「うわぁ!オオカミだ!!」

!!?
バイトに行く途中、何やら騒動になっている!
オオカミ?!
俺の仲間か?

見ると、オオカミが怯えるサラリーマンに向かって唸っている!

・・・ナーダだ!
よく見るとナーダじゃないか!俺の父さんだ!

「リャン!ここにいたか!話はあとだ!ワシについてこい!!」
勢いよく走っていくナーダの後を訳もわからず追いかけた。

ナーダの遥か先、空が赤く染まっている・・・。

第14話 最終回

 

 

山火事だ。
俺の里山が燃えている。
俺の仲間たちは・・・
母さんは・・・

不安だけがよぎる。
しかし、風を切り分けて走り抜けることで、その不安をかき消していた。

「リャン!我が里山が火事になってしまった!仲間が・・・!」
「くそっ!どうしたらいい・・・どうしたら・・・」

その時、後ろからやってきたのは一台の車と何台もの消防車。

「リャン!ここね!あなたの里山は!隊員さん、お願い!火を消して!」

エイコさんだ!なぜ・・・!?

後ろからバケツを持ってきたのは・・・ゆうくんとまぁちゃんと、アキだ!

「リャン!今山の火事を消すからね!心配しないで!」

まぁちゃん!なぜ・・・なぜ今俺はオオカミなのに、みんな俺の正体を知っているんだ?!

「リャン、ごめん!秘密守れなかった!みんなに秘密がバレた!」

ゆうくん!みんなに俺のことを話したのか!
俺がオオカミ男と知った上で、みんな助けてくれているのか!!

消防隊と、我が同士の必死の消化活動は夜まで続き、やがて火は消えた。

「仲間は・・・母さんは・・・?!」

すると、岩陰に隠れていた一匹のオオカミが現れた。

「母さん!父さん、母さんだ!」
「おぉ!トモ!!生きていたか!」

トモと呼ばれる、リャンの母親のオオカミは、岩陰にオオカミの群れを引き連れていた。

「私がオオカミの仲間たちをここに避難させていたの。」

「おぉ!トモよ!よくやってくれた!さすがは我が妻だ!」
「母さん・・・よかった・・・。」

我々は、こんなにもたくさんの仲間に囲まれていることに気がつかされた。
オオカミの仲間、人間の仲間、父さん、母さん・・・。

これからも、この仲間たちの固い絆は崩れることはない。

                                    終わり